免疫療法、進む開発

治療を止めても、がんは縮み続けた 免疫療法、進む開発

がんをもったまま、それまでの暮らしを続ける人が増えてきた。
手術や抗がん剤をはじめとする医療の進歩が「共生」を可能にしつつある。
その中でいま、体を守るしくみを利用した新しい免疫療法に注目が集まる。
高額の費用や重い副作用といった課題はあるが、新しい手法の開発は続く。

物流センターをつくる埼玉県久喜市の建設現場。
Sさん(50)は1月下旬、コンクリート製の内壁を設置する作業を始めた。
手がけたものが後まで形として残る。
そこに仕事のやりがいを感じる。
 
2015年夏、肺に12センチのがんが見つかった。
リンパ節にも広がっていて抗がん剤治療を受けたがすぐ効かなくなり、脳にも転移した。
医師から「これ以上の治療は難しい」と告げられ、「このまま死ぬしかないかな」と思った。
 
だがこの1年10カ月ほど、これといった治療を受けていないのに、がんは小さくなり続けている。
 
新しい薬が使えると聞き、16年3月に千葉大病院に移りオプジーボの点滴を受けた。
肝機能が悪化し、計3回の点滴で中断したが、その後もがんは縮小し最近は3.8cmになった。
  
「がんがまた大きくなったとしても、この薬があるという安心感がある」という。
 
昨秋スペインであった国際学会で、「この薬を使った進行非小細胞肺がん患者の約1割は、3年間にわたりがんが大きくなっていない」との報告があった。
Sさんを担当する滝口裕一・千葉大教授(腫瘍内科)は「以前だったら考えられない」と驚く。
 
オプジーボは「免疫チエックポイント阻害剤」と呼ばれ、体を外敵から守る免疫に作用する。
がんは免疫細胞の攻撃力にブレーキをかける能力をもっているが、この薬はブレーキをはずして攻撃力を取り戻す。
 
皮膚がんの一種メラノーマや肺、胃がんなどの一部の治療に保険適用が認められている。
効いた人には長続きしやすく、老衰など別の原因で亡くなる人も出てきた。
ただし、効くのは患者の一部で、特有の重い副作用が起こり得る。
1人の治療に年間1700万円ほどの費用がかかるとされる。
 
がんを人生最後の病気にしない。
治療にあたるうえでの大きな目標だ。
一部の人とはいえ、それがかない始めている。


新手法進む開発 安全性などは検証されるのはこれから
こうした免疫の働きを利用する新たな治療法が今年、次々に実用化に向けて動き出す。
その一つが、体に無害な近赤外光を使う「光免疫療法」だ。
国内での治験が3月、頭頸部がんを対象に始まる。
 
特殊な薬を注射したうえで、がんに光をあてる。
がんに集まった薬と光が反応してがんが壊れる。
免疫の力も活性化されて残ったがん細胞をたたく。
先行する米国の治験では、15人中7人でがんが消えたという。
 
手法を開発した米国立保健研究所(NIH)の小林久隆・主任研究員は「今後は免疫力をさらに高める方法を併用して、大腸がんなど、より幅広いがん安全性など検証これからを治せるようにしたい」とする。
 
もう一つの代表的な治療法が、患者の体から取り出した免疫細胞に遺伝子操作をして攻撃力を高めて戻す「CAR-T(カーティー)細胞療法」。
血液がんを対象に開発が進み、国内では自治医大などが臨床研究を進め、新たに名古屋大なども準備をしている。
米国での承認につながった治験では急性リンパ性白血病患者63人中52人で、がんが検出されなくなったという。
一度の点滴ですみ、効果は高いとされるが、過剰な免疫反応が起きるなど激しい副作用が起こることがある。
治療費は高額で米国では5千万円超もする。

これまで、免疫療法といえばリンパ球の活性化法やがんワクチンが主で、今も多くの施設で実施されている。
ただしきちんと効果が確認されたものはほとんどなく、自由診療で高額な費用を請求する施設もある。
 
「従来の免疫療法は、有効性を検証するための臨床試験として実施されるべきだ。そうせずに高額の費用を患者からとるのは問題だ」という専門家もいる。
  
「免疫療法」にはいろいろな種類があり、実力がわかっていないものも多い。
期待される効果と安全性が本当にあるのか、検証されるのはこれからだ。


減る死亡率 残る課題 喫煙・低い受診率・高額な費用・・・
がんで亡くなる人は年間約37万人。
新たにかかる罹患者も増え続けている。
ただ、人口の高齢化などを考慮して、国のがん対策が指標としている年齢調整死亡率(75歳未満)は、50年前と比べ約40%減った。
 
要因はいろいろと考えられている。
 
胃がんの原因となるピロリ菌や肝臓がんにつながる肝炎ウイルスヘの感染者が少なくなり、がんになる人が減った。
1983年からは法律に基づくがん検診が胃と子宮を対象に始まり、早い段階でがんを見つけて治療することで、死亡を避けられるようになった。
 
CTやMRIといった診断機器が発展し、がんがどこにあるかを正確に見分けられるようになった。
これに伴い、手術では最小限の範囲でがんを確実に切除できるようになった。
ロボットの活用を含めた内視鏡手術は、精密で体にやさしい治療を可能にした。
がんだけを狙って攻撃する放射線治療も普及が進んだ。

グリベックやハーセプチンといった、がん細胞を狙い撃ちにする分子標的薬も次々に登場し、複数の薬を組み合わせる手法が広まった。
胃や肺といったがんのできた部位ごとにではなく、がん細胞の遺伝子タイプに応じて薬を選ぶ取り組みも本格化し始めている。
  
がんは全体として以前よりも治るようになり、がんとともに生きていく人が増えた。
それだけ、就労面などの社会の整備がより重要になっている。

課題も多い。
特定の薬が効くとみられる患者を事前に見分ける方法は開発の途上で、死亡率の高い膵臓がんなどへの画期的な治療法はまだ確立していない。
がんの最大の原因といわれる喫煙への対策、受動喫煙対策は世界的にも遅れている。
大腸がんなど効果が見込めるがんについての検診受診率も高いとはいえない。        

「効果的な新薬の多くは高額で、長く使い続けるほど医療費は増す。とくに超高齢の人への検診や治療は本人への負担がかかる上に効果が必ずしもはっきりしない。どんな人にどこまでの医療が提供されるべきなのか、検討を急ぐべきだ」と、ある専門家は指摘する。
 
参考・引用一部改変
朝日新聞 2018.2.4

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